フォーカシングとは
■フォーカシングとは:
フォーカシング(Focusing)とは、アメリカの心理療法家・哲学者であるユージン・ジェンドリン(Eugene T.
Gendlin)が見いだした「自分の気持ちにゆっくり触れていくプロセス」のことです。ジェンドリンは1960年代に、カウンセリングがうまくいく場合とそうでない場合の違いについて研究していましたが、その結果、「気持ちに触れて」探索的に自分のことを話せる人はカウンセリングが成功しやすいことが分かりました。ジェンドリンはこの結果をもとに、探索的に「気持ちに触れる」プロセスを教えるにはどうすればいいかを探り出し、そのプロセスを「フォーカシング」と名付けました。「フォーカス=(内側に)焦点を当てる」ことを続けることで、私たちは「アタマ」がどう考えているかだけでなく、自分の「からだ」がどう感じているかに触れることができるのです。
■かしこいからだ-フェルトセンス:
フォーカシングでは、「からだはアタマよりも多くのことを知っている」と考えます。「からだ」は私たちにとって何が必要なのか、次にどうすることがいいのかを知っています。人がいっぱいの部屋で「どこに座ろうか」を決めるとき、私たちは自然に「なんとなくこのあたりが落ち着くかな」という席を選び出します。その時に私たちは、「この感じはうまく言葉で説明はできないけど、やっぱり今の自分はここじゃないと落ち着かない」という感覚を頼りにしています。理屈では説明できないし、はっきりと言葉にはならないかもしれないけれど、でも自分にとって確かに「ここにある」「感じ」。それは私たちのからだが、瞬時にその場の状況や自分の体調などから教えてくれるものなのです。この時に感じる「言葉ではうまく説明できないけど、でもはっきりと感じられる感じ」をフェルトセンスと言います。
フォーカシングでは、フェルトセンスに触れることで、今の自分を確認したり、自分は本当はどんなふうに生きていきたいのかを実感したりすることができます。時には、ずっともやもやしていたことの新しい側面が見いだされて「そうなんだ!」という気づき(フェルトシフトといいます)が起こったりすることもあります。
■フォーカシング=シフト、ではない:
フォーカシングのテキストを読むと、シフトの起こった例が掲載されていることが多いので、フォーカシング=シフトが起こらなければならない、と思ったり、シフトが起こらないとフォーカシングがうまくいっていない、と思ったりする方が多いようです。実際には、シフトはそんなにしょっちゅう起こるものではありません。(毎回、人生が変わるような体験が起こるとしたら、それはかえって恐いですね)。また、「起こそう」と思って起こるものでもありません(むしろシフトを起こしたいという「欲」はフォーカシングでは邪魔になることが多いのです)。変化は起こるべき時がくれば、起こるべき方法で起こります。答えはむしろ、思いがけないところからやってくることが多いのです。
フェルトセンスをゆっくり感じることができれば、そのプロセスがフォーカシングです。今の気持ちをじっくり丁寧に感じる機会は、なかなかふだんはありません。少し時間をとって、丁寧に「今、どんな感じがあるのかな」と内側に注意を向ける時間を大切にすることが、フォーカシングを生活に取り入れることです。たとえ大きな気づきがなくても、からだは丁寧に注意を向けてくれたことに喜びます。からだが喜ぶと、凝っていたり、きつい思いをしていたりする気持ちも、ほぐれ出すことが多いのです。
■フォーカシング=6ステップ、とは限らない:
フォーカシングのやり方は人それぞれですし、また時と場合によっても違ってきます。よく紹介される方法として「ショートフォーム(簡便法)」または「6ステップ」という方法がありますが、この方法がぴったりこない、という方も多いです。6ステップがうまくいかないからといってフォーカシングに向いていないわけではありません。いろいろな体験を積み重ねることで、自分なりのフォーカシングの方法が見つかることと思います。フェルトセンスを大事にしてかかわっていくプロセスそのものがフォーカシングなのです。
■フォーカシングのバリエーション:
フォーカシングはセルフヘルプの方法として生み出されたものなので、一人で行うこともできます。ですが、最初は誰かにガイド(リスナー)をやってもらうほうがやりやすいでしょう。1対1のセッションだけでなく、いろいろなワークが工夫されています。・グループで一人がガイドする方法・非言語的な媒体を用いる方法(コラージュ、描画、音楽、など)・ボディワークを取り入れたもの(この発展型として、「ホールボディ・フォーカシング」があります)。・フォーカシングのプロセスの一部である、クリアリング・ア・スペース(気持ちの整理)を中心としたもの・夢フォーカシング
フォーカシングをする本人のことを「フォーカサー」といいますが、フォーカサーで大事なことは、ガイド(リスナー)に注文をつけることができると言うことです。自分の内側で起こっていることが一番感じられるのは「自分」です。ガイドの提案が「ずれているな」と思ったら「ちょっと違う気がします」と言って構わないのです。どんな熟練のトレーナーであっても「テレパシー」はありません。困っている、よく分からない、こんなふうに進めてみたい、などが浮かんできたら、どんどんガイドに伝えてみましょう。ガイドもそれを歓迎するはずです。
ワークショップでは、その回の参加者の希望に応じて、いろいろなワークを組み合わせて実施しています。いろいろ試してみる中で、自分との「新しいつきあい方」が見えてくるお手伝いができれば嬉しいです。